0人が本棚に入れています
本棚に追加
家事を続けることすら辛く、やむなく母親に来てもらうことにした。
寝床で安静にしている時間が多くなり、心配になった結城は、お祖母ちゃんに聞いた。
「ねぇ、お祖母ちゃん、ママは病気なの?」
お祖母ちゃんは、明らかに暗い表情で答えた。
「ゆうくんのお母さんは今、重い病気に罹っているのよ。ゆうくんも、お利口さんにしていなければねぇ」
「どれくらい重いの?」
お祖母ちゃんは手で顔を隠して、肩を震えて泣いていた。
真智子の進行性癌は、意外なほどの速さで、気力を根こそぎ奪っていった。
年末には、一時検査入院をして化学療法を勧められた。だが、真智子は頑なに拒み、自宅療法を選んだ。
真智子の思いは、一つだけだった。
(少しでも子供たちと一緒にいたい……何としてでも、結城が強くなる姿を見守らなければ……)
どんなに激しい、刺すような痛みが襲ってきても、子供たちの前では真智子は、努めて明るく優しいお母さんであり続けた。
空手の送り迎えが母親から祖母に代わった頃、なぜか、結城は稽古で泣くことがなくなってきた。
聞けば、空手の稽古の中では、基礎体力を向上させる厳しいトレーニングが行われていた。
腹筋二百回、背筋二百回、スクワット百回、拳立て百回、それらの稽古を結城は、いつも途中で諦めていた。
しかし、真智子の執念が、この少年の心を変えていった。
真智子は病床にあっても稽古に通い続ける結城を励まし続けた。結城のために、空手着を形どったお弁当を作った。お弁当のご飯に海苔で作った黒帯を巻いたのである。
最初のコメントを投稿しよう!