第2章

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11  結城は、母親が作ったお弁当を食べながら、思った。 (重い病気に罹っているのに、ママは僕が強くなることを信じて、ずーっと見守ってくれている)  身体の調子が良いときは、真智子は祖母と一緒に稽古を見学してくれた。  母が見ていると、自然と稽古にも力が入る。結城は、大きな声で気合いを入れると、母まで元気になるような気がした。  しっかりと母に見守られている。その事実を思えば思うほど、強くならなくてはと結城は決意をした。  ある日、腕組みをしながら、師範が「結城君、最近は本当によく頑張っているな!」と声を掛けてくれた。  結城には一番の悩みがあった。空手の稽古には慣れたのだが、組手をするのが、もの凄く怖いのだ。  そこで、思い切って、そのことを師範に相談してみた。 「押忍、師範、どうすれば組手が強くなれますか?」  師範は思いがけない結城の質問に驚いた様子で、また、意欲的になっている姿勢に笑みを浮かべながら、はっきり答えた。 「うん、基本稽古をたくさんやって、それとスパーリングを頑張ってやるしかないな……あとは、負けることを恐れない。これが大事だね」  結城は(ママが言ったことと同じだ)と思い、不動立ちで腕を十字に交差させながら元気に返事をした。 「押忍。師範、僕、頑張って強くなります」  師範は結城の頭を撫でながら「頑張れよ!」と激励してくれた。  不思議と師範に「頑張れ」と言われると(自分は強くなれるんじゃないか)と思えるようになってきた。  今まで嫌だった稽古が、少しずつ楽しくなってきた。 「ゆうくん、最近、空手に行くと、生き生きしているね。空手が好きになったの?」  真智子が嬉しそうに結城に聞いた。 「うん、僕、強くなって、大人になったら、ママのこと守るよ。だから、安心して早く良くなってね」 「ありがとう、ゆうちゃん、ママも頑張って早く病気を治すから、ゆうちゃんも頑張ってね」  もはや歩くことも辛そうな母の姿を見て結城は心が痛んだ。
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