第2章

19/30
前へ
/30ページ
次へ
12  年明けには、昇級審査があった。  稽古の後、結城は師範に呼び止められ、審査を受けることを聞かされた。 「結城君、本当は三ヶ月以上の修行がなければ審査は受けられないんだけど、君は本当に頑張っているから、思い切って受験しなさい」  結城は突然の話に、少し戸惑ってしまった。 「押忍、だけど……僕、まだ、型とかできないし……」 「頑張って稽古すれば、きっと年内に憶えられるよ。だから、頑張って受けてみなさい」 「押忍、頑張って受けます!」  結城は生まれて初めて試験を受けることに緊張しながらも、喜びを隠せず、真智子に報告をした。 「ママ、師範が、ゆうくんも試験を受けていいって」 「良かったね、ゆうくん、何帯になれるのかなぁ……」  寝床に横になりながら真智子は、結城の手を握りながら聞いた。 「一つ上がったらオレンジ帯で、飛び級したら、空帯だよ。ゆうくん、飛び級したいなぁ」 「頑張って稽古すれば、飛び級できるよ、ゆうくん、頑張ってね……」 「うん、わかった」  結城は元気に答えた。  必ず良い結果を出してママに喜んでもらおうと、結城は自分の胸に固く誓った。  その時、真智子は体を起こして姿勢を正し、結城に話し始めた。 「それから、ゆうくん、ママと約束して欲しいことがあるんだけど……」 「なあに……」  結城は母に見つめられ、少しだけ緊張した。 「ゆうくん、強くなって黒帯になるまで、空手を絶対に辞めないでね」  母の眼は今まで見たことないぐらい清く澄んでいた。 「うん、ママ、約束するよ。だから、ママも早く良くなってね」 「ありがとう、ママも頑張るからね。ゆうくん、負けても終わりじゃないよ。辞めたら終わりなんだよ」  母は、自分に言い聞かせるように結城に語った。 「わかった! ゆうくん絶対に、空手は辞めないよ」  日に日に弱っていく母親を少しでも喜ばせたい。その気持ちが、ひ弱な少年を短期間で変わらせた。 (お母さんの前で強くなった姿を見せたい)  その気持ちが結城の原動力だった。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加