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12
年明けには、昇級審査があった。
稽古の後、結城は師範に呼び止められ、審査を受けることを聞かされた。
「結城君、本当は三ヶ月以上の修行がなければ審査は受けられないんだけど、君は本当に頑張っているから、思い切って受験しなさい」
結城は突然の話に、少し戸惑ってしまった。
「押忍、だけど……僕、まだ、型とかできないし……」
「頑張って稽古すれば、きっと年内に憶えられるよ。だから、頑張って受けてみなさい」
「押忍、頑張って受けます!」
結城は生まれて初めて試験を受けることに緊張しながらも、喜びを隠せず、真智子に報告をした。
「ママ、師範が、ゆうくんも試験を受けていいって」
「良かったね、ゆうくん、何帯になれるのかなぁ……」
寝床に横になりながら真智子は、結城の手を握りながら聞いた。
「一つ上がったらオレンジ帯で、飛び級したら、空帯だよ。ゆうくん、飛び級したいなぁ」
「頑張って稽古すれば、飛び級できるよ、ゆうくん、頑張ってね……」
「うん、わかった」
結城は元気に答えた。
必ず良い結果を出してママに喜んでもらおうと、結城は自分の胸に固く誓った。
その時、真智子は体を起こして姿勢を正し、結城に話し始めた。
「それから、ゆうくん、ママと約束して欲しいことがあるんだけど……」
「なあに……」
結城は母に見つめられ、少しだけ緊張した。
「ゆうくん、強くなって黒帯になるまで、空手を絶対に辞めないでね」
母の眼は今まで見たことないぐらい清く澄んでいた。
「うん、ママ、約束するよ。だから、ママも早く良くなってね」
「ありがとう、ママも頑張るからね。ゆうくん、負けても終わりじゃないよ。辞めたら終わりなんだよ」
母は、自分に言い聞かせるように結城に語った。
「わかった! ゆうくん絶対に、空手は辞めないよ」
日に日に弱っていく母親を少しでも喜ばせたい。その気持ちが、ひ弱な少年を短期間で変わらせた。
(お母さんの前で強くなった姿を見せたい)
その気持ちが結城の原動力だった。
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