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お姉ちゃんの寛子は、まだ三年生なのに家事や手伝いを率先して行う、出来た子供であった。
それに比べ、弟の結城は一年生になったというのに、幼稚園児のように母親に甘えている。
早生まれのせいか、身体も小さく、言葉使いも赤ちゃんのようだ。
台所に立って炊事をしていると、結城がやってきて赤い靴下を履いた真智子の足にしがみつきながら、甘ったれた声を出した。
「ネェ、ママー、アショボウヨー」
真智子は、呆れながらも結城に言って聞かせる。
「ゆうちゃん、ママは忙しいから、お姉ちゃんと遊びなさい」
しがみつく子供を可愛いと思いながらも、努めて優しく諭した。
「やだ、やだ! ママとアショブー」
結城は駄々を捏ねて真智子の足を強く抱きしめた。泣きそうな顔をしながらも、結城の顔は安心感でいっぱいだ。
あと、三ヶ月したら、この子がしがみつく足も永遠になくなると思ったら、真智子は哀しくて、今すぐにも死んでしまいそうだった。
しゃがみ込み、結城と同じ目線になって語りかけた。
「ゆうちゃんは男の子でしょう、強くならなければいけないのよ」
「ゆうちゃん、いっぱい、べんきょうしゅる」
「そうね。ゆうちゃんは、ごほん読むの、とっても上手だもんね」
「ゆうちゃんね、おねえちゃんのコロコロ、全部、読んだんだよ」
お姉ちゃんが読んでいる分厚いコロコロコミックという漫画雑誌を、結城は吹き出しを無視して全部すっかり読んだらしい。
「えらいねぇ。ゆうちゃんは大きくなったら、何になるの?」
「仮面ライダー龍騎、だって、ゆうちゃん、でんぐり返しできるんだよー」
結城は、得意そうな顔で仮面ライダーの真似をした。
「すごいねぇー。ママに見せて」
「いくよー、ええぃ」
結城は頭から転んで、受け身も取れず、背中を打ち付けた。真智子は心配して、急いで結城を抱き上げた。
「ゆうちゃん、大丈夫?」
「うん、だってぜんぜん、ゆうちゃん、いたくないもん」
結城は少し泣きそうな顔だが、強がって胸を張る。
「すごいねぇ、ゆうちゃん。つよいんだね」
結城は走り出し、仮面ライダーのオモチャを取りに行った。
(この子に、あと三ヶ月で何をしてあげられるんだろう)
結城の小さな背中を見ながら、また真智子は泣き出しそうになった。
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