第2章

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14  審査当日、母は仮退院をして審査を見に来てくれた。この日、白帯の受験者は、結城が一人だけだった。  父親に支えられ、一番後ろの椅子に座った母は、結城から見て一回り小さくなったような気がした。  顔は青白く頬は瘠せていた。それでも母は結城の姿を見ると優しく微笑んだ。  母親の口が静かに動く。 「が、ん、ば、って、ね」  結城は母の姿を見て、俄然、やる気が出て来た。  基本、移動稽古、型、と進み、体力測定が行われた。始めは拳立て、つまり、拳を握った状態で腕立て伏せを行う。  最低合格ラインは、三十回だった。入門したばかりの結城は、これを一回もできなかった。  師範の号令で全員が拳立てに臨む。結城はちらっと母を見て、意識的に「自信あるよ」という表情を作って見せてから、拳立てを始めた。  号令に合わせて腕を大きく屈伸する。三十回を過ぎた頃、耐えきれず脱落する者がたくさん出た。  結城は歯を食いしばって、必死に続ける。五十回を越えて、残っている人は、ほんの数人になった。  七十回に至ると、もはや残っているのは、黒帯を受験する茶帯の先輩たちだけだった。結城と茶帯三名が、九十回をクリアした。  九十五回目で、茶帯の一人がリタイアした。悔しそうに、まだ頑張って残っている二人を見つめる。  100回を達成したのは、結城と茶帯の二人だけだった。場内から期せずして拍手が起こり、場内がどっと沸き立った。  結城はすぐに母親を振り返って見た。母は誇らしげな顔で結城を見つめている。 (ママ、僕やったよ!)  結城は心の中で、大声で叫んだ。
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