第2章

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15  最後の審査は、結城が苦手としている「組手」だった。相手は自分よりも一回りも大きな二年生の子である。  結城は、自分の順番が来るのを、少しドキドキしながら待っていた。手と足にサポーターを着けて、マスクを被り、呼ばれるのを待つ。 「池結城君、前に!」と審判の師範代から声が掛かり、胸を張って「押忍!」と応えて中央に進む。  歩きながら真智子と目が合った。心の中で(負けないぞ)と言い聞かせた。 「始め!」と審判の声が掛かり、試合が始まる。  相手の選手は、大きな身体を生かしてパンチの連打を浴びせてくる。結城の小さく薄い胸板に、相手のパンチが突き刺さる。 「どす!」「どすん!」と、命中の音が見ている人にも聞こえるほどに、強烈な突きの応酬だった。  結城は回り込みながら、相手のパンチの死角に回り込んだ。上段への蹴りを狙う。  何度か結城の蹴りが相手の顔面を擦る。でも、相手選手の背が高く、ちょっとのところで届かない。 「どーーん!」  結城が回り込んだ方向へ、相手選手の膝蹴りが当たる。鳩尾にクリーンヒットされた結城は声もなく、崩れ落ちた。  今まで味わったことの全然ない痛み。内臓全体が鷲掴みにされ引き取られるような、背中まで響く痛み。  呼吸ができない。手足の自由が利かなくなるほどの痛みを受けて、結城の目からは涙が溢れ出た。  誰もが一本勝ちを確信したに違いない。だが、膝をついた瞬間、結城は即座に立ち上がった。  驚く相手選手。信じられないような顔の審判たち。結城は、声を上げて泣きながらも、執拗に反撃に出た。 (痛いけれど、ママはもっと辛く苦しい思いをしているんだ 倒れてたまるか)  結城の頭の中には「母の前では絶対に倒れない」という言葉しかなかった。  やがて、試合が終了した。結城は判定で負けた。  だが、倒れても倒れても、なお立ち上がって向かっていく結城の不撓不屈の精神は、みんなを感動させた。  場内で見学している父兄のすべてが、結城の根性に惜しみない拍手をしてくれた。
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