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結城は、上がっていく帯の順番真智子に教えようと、話し始めた。
「ゆう君は、オレンジを飛び級して空色でしょう。次が青で、その次が紫、そして、黄色。えっーと、その後は、なんだっけなぁ…」
指折り色を説明する結城を見て、お姉ちゃんが口を挟んだ。
「赤帯でしょう?」
「そうだ! 赤帯が五級で、次が緑。それで紺になって、茶帯になる。そして、最後が黒帯だ!」
それぞれの帯になる時、母は今日みたいに応援してくれるのだろうか。結城は、ふと不安になり、考えてしまった。
「ママ、黒帯になるまで、ゆうくんのこと、応援してくれるでしょう?」
母の応援は、結城にとって掛け替えのないぬくもりであった。
二人の会話を聞いていた父が、耐えきれずにトイレに向かった。
祖母は悲しい顔でうつむいている。
お姉ちゃんは素知らぬ顔で、スパゲッティをフォークで丸めている。
結城は、父がトイレからなかなか帰ってこないので心配になり、チョコレート・パフェを食べる手を止めて、見に行った。
トイレのドアを開けると、父の姿がない。個室のドアが閉まっていた。
中から絞り出すような、泣き声が聞こえてきた。父のものだった。
結城はトイレをしながら嬉しい気持ちと悲しい気持ちが一緒になり、涙が少しだけ眼から溢れた。
家族全員が揃って食事をするのは、結局これが最後になってしまった。
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