第2章

4/30
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/30ページ
小さな子が、エクササイズ・ボールを使って遊びに耽っている光景が見えた。 (これだったら、結城にもできるかしら)  先生らしき人から号令が飛ぶ。 「はい、かたづけて集合!」  子供たちが慌ててボールやマット代わりに使っていたミットをかたづけた。  すごい統率力で集合を完了する子供たち。三十秒も時間を掛けずに、横一列に整列した子供たちを見て、真智子はある種の感動を覚えた。 (こんな小さな子供たちが、良く躾けられているなぁ)  入口に近づき入会の案内をもらおうと思った。  玄関に入ると同時に稽古が始まった。  先生の与える指示に、幼稚園生のような子供まで大きな声で「押忍!」と返事をしている。  入口に立った真智子に気づき、先生が指示をした。 「たつる」「押忍」  アトピーで顔がブツブツだらけの、黒帯を巻いた少年が走って駆け寄ってきた。 「何か、ご用でしょうか?」  両手をきちんと前に揃え、しっかり真智子の顔を見て訊ねた。 「あのー……入会の案内みたいなもの、ありますか?」  こんな小さな子に言って分かるかなぁと思いながらも、訊いてみた。 「どうぞ、お入りください」  黒帯の子はスリッパを揃えて置きながら、中に入るよう勧めた。  スリッパに履き替え、入ろうとしたときに、 「お母さん。ここは道場なので、靴を揃えてください」  ぴしゃりと言われ、真智子はまた感動した。 「あっ、ごめんなさい」  と即座に謝り、(なんて礼節の行き届いた道場なのだろう)と思いながら靴を揃え入って、すぐの指導員室で入会案内一式を貰った。  帰り際、同じ少年に聞いてみた。 「今、何年生?」 「一年生です」  黒帯を締めた、たつると呼ばれていた少年が答えた。結城と一緒だ。 「ぼくは、どれくらい空手をやっているの?」 「幼稚園の時からです。だから、もうすぐ三年です」 「そう、立派ね」 「いえ、そんなことありません」  直立不動でハキハキと答える黒帯の一年生を見て、真智子は結城にも習わせたいと真剣に思った。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!