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自宅に帰り、借りてきた仮面ライダーのDVDをかけながら、真智子は結城に聞いてみた。
「ゆうちゃん、空手って、知っている?」
結城はクリクリの目玉を更に大きく見開いて、元気よく答えた。
「しってるさー! えいっ、ヤッー、ってやるやつでしょう?」
拳を振り回し、結城が楽しそうに空手の型を真似した。
「へー、知ってるんだ」
真智子は、息子が意外に物知りなことに、驚きの気持ちを隠せなかった。
「うん! だって、同じクラスの健太くんもやってるよ」
また、結城は空手の真似をした。そこで真智子は、静かに聞いてみた。
「ゆうちゃん、空手を習ってみない?」
「やだよ、だって痛いもん、ゆうたん痛いの嫌ーい」
結城は赤ちゃんのような顔で、甘えるように答えた。
どうやら結城は、友達から空手の話を聞いて、ものすごく痛いものだと思っているらしい。
「それなら、ゆうちゃん、今度ママと一緒に空手を見に行かない? ママ、さっき少し見たんだけど、かっこよかったよ」
少し考えて結城が答えた。
「かっこいいなら、ゆうたん、空手、見てみたい」
さっきの赤ちゃん顔から、少しだけ少年の顔になって、真智子に微笑んだ。
「じゃあ、パパと相談して、今度の日曜日に、見に行こうね」
真智子は、ともかく自分が亡き後、この子が強く生きていける道を少しでも探してあげようと決意をしていた。
子供に、何かをしてあげられる時間が三ヶ月しかない。それは、余りにも短い期間であった。
そこで、その夜、夫の浩之が帰宅した時に食事しながら相談をしてみた。
「ゆうくんに空手を習わせようと思うんだけど、どう思う?」
浩之は少し険しい顔になった。
「無理だろう、あの小さな体だし。それに、お前の今後の治療だって考えたら、結城の送り迎えなどできないだろう」
真智子は少しムキになって反論した。
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