第2章

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5  空手の稽古は日曜が休みで、通常の練習はしていなかったが、たまたま見学した日曜日は、昇級昇段の審査を行っていた。  道場を埋め尽くした、少年から一般までの受験者たちの気合いが、外まで響いていた。  真智子夫婦と結城は初め、余りの人の多さに驚き、出直そうかと思った。  入口の付近で覗いていると、たくさんの少年たちが新しい帯を目指して、審査に臨んでいた。 「あのーすいません、会員ではないのですが……今日って見学できますか?」  と真智子は、見学している父母にさりげなく聞いてみた。  入口付近で会場を整理していた生徒の母親らしき人が親子に気づいて頷いた。 「あっ、どうぞどうぞ。大丈夫だと思いますので、お入りください」  婦人は背中に、まだ生まれたばかりの赤ん坊を背負っている。自分と同じぐらいの年齢だろうか。顔には満面の笑みを浮かべている。  真智子夫婦は軽く正面に会釈をして道場に入り、隅のほうへ移動した。結城は心なしか、緊張のせいか顔が青ざめている。  その姿を見て真智子は「やはり、うちの子には無理か」と少し悲しい気持ちになってしまった。  審査会は基本の稽古が終わり「型」の審査が行われていた。師範と名乗る、一番画体の良い中心者が型の説明をしていた。 「空手の型とは、攻防武技の連続体であります。昔の拳聖達人が幾星霜、超人の難行苦行を経て、理技両面より基本となるべき妙技を、統計的に連結し、組み合わせて編み出した、臨機応変、千変万化する理想的な技の集大成であります。 空手の型は技の命であり、神髄極意を極める最高唯一の道程であります。真剣、気合い、一呼一吸、一投足、一撃一蹴りの型によって、無我の境地に入り、その奧技を極めることを目的とします。型なくして、空手なし、神髄奥技なき空手は単なる体操であります。空手の型は、前後左右、四方八方に相手を仮想し、一定の開手線上において統計的に攻防の基本技を演じます。開手線とは、前後左右に相手を仮想して攻防進退、転身呼吸の基本武技を演ずる線であります」  師範の話は、まるで別世界のようで、真智子たちは聞いていて何のことか、さっぱり分からなかった。
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