第2章

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すると、師範がニコリと笑い「まぁ、そんな理屈は、どうでもいいんです」と語りかけるように言った。 「要するに、それぞれの稽古には、その稽古の目的があり、その目的を知ったうえで鍛錬を積む、それによって(どんな人でも必ず強くなれる)それが空手の醍醐味です」  真智子夫婦は、難しい空手の解釈は分からなかったが、師範の言った「どんな人でも必ず強くなれる」という一言が気になった。  型の審査が始まった。  最初は、習い立ての白帯たちが恐る恐る、覚えたばかりの基本型を辿辿しく行っていた。  中には、結城と同じくらいの少年もいて、真智子には親の前で胸を張って演武をする子供が羨ましく思えた。 「ゆうちゃん、かっこいいね、ゆうちゃんも空手を習ってみたら」  と隣でかしこまっている結城に声を掛けてみた。でも、返事は帰ってこなかった。結城は真剣に型を演じている少年たちを一心不乱で見つめている。  一通りの審査が終わり、黒帯たちの特別演武が行われた。  先日、パンフレットを貰いに来たときの少年が凛々しく鮮やかな型を披露した。  その少年の型は、まるで目の前に敵が現れたかのような迫力に満ち、小さな体が見えない敵を相手に全力で闘っているかのようであった。  真智子は、すっかり空手の魅力に感動し、絶対に結城を習わせようと心に決めていた。
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