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6
帰り道、近くの通称「恐竜公園」に寄って、結城に話しかけた。
「ゆうちゃん、空手どうだった?」
結城は少し考えて、笑顔で言った。
「お兄ちゃんたち、みんな、かっこよかったね」
自分には余り関係ない、と言った気のない口調である。言うなり、たちまち恐竜公園の砂場に走って行ってしまった。
真智子は、結城の無邪気な背中を見ながら考えた。
(どうしたら、空手に興味を持ってくれるだろう)
夫の浩之が近づいてきて、結城を見ながら声を掛けた。
「まだ、赤ちゃんだからな、空手はやっぱり無理じゃないか」
結城は夢中になって砂遊びを始めている。
「そうね、やっぱり無理かしら……」
溜息をつくのを堪えて、真智子は同意した。
諦めて家に帰ろうとした時、反対の道から空手着を着た小さな女の子が歩いてきた。お父さんらしき大柄の男性が手を引いている。
見ると、まだ幼稚園前の三歳ぐらいだ、空手着が半纏のように見える。思わず真智子は声を掛けてみた。
「あのー……松栄塾の方ですか?」
一緒にいた割烹着を着たお父さんが、答えた。
「ええ、そうです、うちの子は二歳から習ってるんですよ」
目玉が飛び出しそうな笑顔で微笑みながら話すお父さんは、少し自慢げだった。
真智子は驚いて聞き返した。
「えー! 二歳から空手なんか、できるんですか?」
「本人は、なにやってんのか、わかんねえだろうけど……キッズクラスってのがあって、幼稚園児からできるんすょ」
お父さんは、ニコニコしながら説明してくれた。真智子は父親の恰好を見て疑問に思い、聞いてみた。
「あのー、失礼ですけど、何かお店でも経営されているんですか?」
「あっ、そこの角を曲がったとこで、焼鳥屋やってんですよ」
父親は屈託なく笑って見せた。
「そうですか、二歳から……」
真智子は、つくづく思った。
(そんな歳からできるんなら、きっと結城にだって、できるはず)
そう思うと、居ても立ってもいられなくなった。
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