第一話 記憶

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第一話 記憶

 少年は恐怖していた。  その光景はまるで地獄のようだった。  村が襲われた。  家々には火が放たれた。  その火は他の火と競うかのようにものすごい速度で広がっていく。  襲撃者(まじゅう)は嬉々として人を殺しているように見えた。  そして村の住民たちは逃げ喚く。  泣いても、叫んでも、命乞いをしても、襲撃者は止まらない。  少年は半壊した家の隅で怯えていた。  目の前では、父が襲撃者と戦っている。  そのすぐ後ろには母がいて、少年を気にしながら父の手助けをしている。  襲撃者は咆哮しながら父の刀に斬り殺されていく。  死の恐怖がないとでも言うかのように、襲撃者たちは自身を殺す刃に恐怖一つなく飛び込んでくる。  襲撃者の鉤爪が父の脇腹を抉った。  刀は止まり、父は苦悶し、襲撃者たちは飛びかかる。  父に降りかかろうとしていた鉤爪を、割って入った母が全て受け止める。  母の腹部に鉤爪(かぎづめ)深々(ふかぶか)と刺さり、生々しい色の血が飛び散る。  その時、半壊した家の外から二つの影が飛び込んできた。  その影は、長身の男と深く黒い毛並みをした狼だった。  その二つのうちの一つ、黒い狼は、地面へと落ちる前に体をゆがめ、艶めかしく黒光りする太刀に変化し、それをつかんだ男が襲撃者たちを斬り伏せていく。  新しい獲物を見つけた襲撃者たちは、自ら男の刃に斬られに飛び込む。  男はあらゆる襲撃者の首を確実に斬り落としていく。  男はついに視界内すべての襲撃者を倒した。  周辺の安全を確認したのち少年に近づき、頭をなでながら大丈夫だよと言い、後から入って来た人たちに走り寄り、会話をしている。  少年はその男の言葉に恐怖をやわらげ落ち着かせるとともに、絶望が少年の心に入り込む。  少年の目の前には血を流し苦悶しながら地に伏す両親。  その血が流れ、少年の足にまとわりつく。  そして少年の意識が薄れ――――  「――こと、誠!起きて誠!!」  そして少年、新藤(しんどう) (まこと)は目を覚ました。
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