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「で? どうしたの? 何かあった?」
俺は視線を咲良に向け直して自然と笑んでいた。
それに咲良は一瞬だけキョトンとした表情を浮かべていた。
だから俺は小首を傾げて咲良に『何?』と言葉なく訊ねてみた。
それに咲良はふるふると首を横に振って本題を切り出した。
「雛人を見なかった?」
雛人・・・。
俺はその親しみ馴染んだ名前を口の中で反芻した。
雛人・・・か・・・。
俺は開けていた体育の窓の外へと目を向けた。
外はゆっくりと夜を迎え入れようとしていた。
9月に入り、日が沈むのが早くなった。
季節はいつの間にか巡り巡って秋だ。
「屋上か・・・図書室じゃない? 友利先輩と一緒に・・・」
ああ・・・そう言うことか・・・。
「正直に『一緒に来てくれ』って言えばいいのに」
俺はそう言って咲良を軽く小突き、体操服の袖口で汗を拭った。
それに咲良は『えへへ~』と笑ってバスケットゴールの下に転がっているバスケットボールの回収へと取り掛かった。
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