泣かないで

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 自称芸術家のT君は、バイトでお金を貯めると旅に出て、海や川で流木や漂流物を拾い集め、それらを使ってオブジェなどを製作している。 「ヤバいもん拾っちゃったかもしれない」  久しぶりに東京に戻ってきたT君を飲みに誘うと、いつも陽気な彼が暗い顔でつぶやいた。  今回は、北関東をメインに旅してきたというT君。とある河原で、『使い勝手の良さそうな石』を見つけ、いくつか持ち帰ってきたのだそうだ。 「漬物石程度の大きさでさ、どれもスベスベでイイ感じに丸くてね、ペイントするのに好都合だななんて考えていたんだけど」  その石たちが、夜な夜な『泣く』のだそうだ。 「夜になるとどこからか、赤ん坊の泣き声が聞こえるようになってね」  T君の家は親戚から安く借りている一軒家で、周りに他の民家はなく、田んぼに囲まれて建っている。他の家族の生活音が、聞こえてくるはずがない。 「おまけに一人だけじゃなくて、何人もの泣き声なんだよ」  T君はゲイである。だから、水子の霊とかでもないはずだ。 「今までこんな事なかったし、明らかにあの石たちを拾ってきてからなんだよね」 「いわくつきの石なんじゃないの?」 「やっぱりそう思う?」  賽の河原や登山道のケルン、子どもの頃祖父母から「お墓の石は持って帰ってはいけないよ」などともよく言われた。『石』には霊的なものが、宿りやすいのではないか。
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