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「ごめんなさい、ちょっとお話が聞こえちゃって」
T君と二人、難しい顔を突き合わせていると、隣のテーブルの女性がいきなり話しかけてきた。
「もしかして、それO川の話じゃないですか?」
北関東の出身だと言うその女性に、T君は撮影してきた河原の風景の画像を見せると、彼女は「やっぱり」と頷き
「すぐにでも石は元の場所に返した方がいいかも」
と、その川の話を聞かせてくれた。
遥か昔その川には、度々その地を襲った飢饉の為に『子減らし』を行う者たちが訪れていた。彼等は赤ん坊に石をくくりつけると、その川に投げ捨てていたのだと言う。赤ん坊の身体はやがて朽ち、石だけがその川の底に今でもごろごろと残されているのだそうだ。
「私、今日本当は他のお店予約していたんですよ。だけど急にここに来たくなっちゃって」
T君に川の話を教える為に、この店に引き寄せられて来たのかもと、彼女は言いたそうだった。澄んだ瞳が印象的な女性であった。
「……石がどれもすべすべだったのは、ゴツゴツした石だと赤ちゃんが痛いだろうって、考えてあげたからかもなぁ」
T君のそのひとことが、やけに哀しかった。
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