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苛立ちが気味の悪さに変わり、まずいと思った時には彼女は目の前にいた。
わずかに上げた頭、白い帽子の縁の下で妙に赤い唇が弧を描く。
押し付けるようにスマホを渡したその時、電車が来た。
彼女はまた端に向かって歩いていた。その足元に、ボトリと何かが落ちた。
白く濁った2つのそれが俺を見た瞬間、反射的に電車に飛び乗っていた。
次の日もまた残業になった。何とも言えない恐怖と闘いながら駅に向かう。
またあの愛想のない駅員がいたことで少し気が楽になり、改札をくぐる。
その時、傍らにあった『落し物ボックス』に目が行った。
透明の四角い箱の中には彼女と思われる、白くカサつき千切れたモノがたくさん敷き詰められていた。
吐き気を抑えながら恐る恐る階段を下りる。
あの女は、自分の落とし物を誰かが届けてくれるのをきっと待っている。
だが届けたところでどうなるのだろう?
確かめる目も受け取る指も全て落としてしまったのに。
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