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 中国の一匹の蝶のはばたきが、ニューヨークで嵐を起すかどうかは知らないが、この夏を逃せば、ぼくは確実に青春弱者になってしまう。きっといつまでも、映画を見るたび、イラストを見るたび、写真を撮るたびに自分の人生と比較して、淋しくなるのだ。身悶えするのだ。  時間を巻き戻すことはできない。再現することもできない。ただただ新しい時間を積み重ねていくだけである。そうして、ガラス板に描かれたイラストレーションのように奥行きが生まれるのだ、と誰かにきいた。  現実は、トンネル効果が生まれることもなければ、背景がボケることもない。高彩度でもないし、良コントラストでもない。ぼくにフォーカスが合うことも、たぶん、ない。  だからこそ、ぼくはファインダー越しに根拠のない希望を抱いてやまない。  しかし、思い出作りばかりしていて、いいわけはないのである。受験の夏でもある。みんな進学を希望している。もちろん、僕もその一人である。現実逃避し、センチメンタルにもなるというものだ。 「ーーというわけで、今藤、長濱。あとは好きにしろ」  先生が諦めた笑いを浮かべ、二人の名前を呼んだ。たゆたっていた教室の空気が変わり、ひりっと引き攣った。 「はい! ありがとうございますっ!」     
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