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インバース・パラレル
その日は雨が降っていた。まだ二月も半ばの凍えるような日。
彼はその場所にぽつんと立っていた。僅かな街頭の光と、凍てつく雨を浴びて、所在なさげな姿。芯から既に凍ってしまったのか、ぴくりとも動かない。放っておけばそのまま砕けて消えてしまいそうな、彼。
彼女はその姿を目にした時に、迷わずたった一つの選択をしていた。
どこにも行けないから、そこに立っているのか。己の居場所をその身一つ分しか、信じられないから、身動き一つすら取らないのか。
彼女は、だから、彼の手を引いた。繋がいだ手が、一人の居場所を二人のものへと変える。これで、自分が居て良い場所が二つになったのだと、彼を促す。
彼女が彼に手を伸ばした理由なんて、所詮はそんなもので、でもそんな理由だからこそ、それは必然だったのだろう。
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