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寮と呼びつつも、もとは普通の1Kのアパートで、各部屋に風呂トイレもついており共同生活の場所は無かった。それを大家が一階の三部屋をぶち抜いて共同スペースにしてしまったのだ。そのため共同スペースにさえ立ち入らなければ普通のアパートと変わらず、実際に共同スペースには立ち入らない住人もいる。夕食についても、不要な時だけ大家に伝える人と必要な時だけ大家に伝える人とで分かれるほどに、その利用方法はばらばらだった。話を聞くほど、傍から見れば趣味や道楽と思われても仕方がないほどに、緩い方針でアパートが運営されている。実際、赤司からの家賃は受け取る気の無い出世払いというのだから、それはもう慈善事業以外の何物でもないだろう。
居住者は二人の高校生と、大学生が三人に、社会人が一人。一階は大家が使っているので、二階にある残りの空き室を五人が使っている。皆、ここの住人の顔は知っているが、交流は限られていた。大学生の笹島健人と社会人の飯田彰浩とは交流のある高校生二人も、残りの大学生二人については、会えば会釈する程度の関係で、はっきりと自己紹介をした訳でもなかった。
「じゃあ、下で」
赤さびの浮いた外階段を上り、手前にある赤司の部屋の前で二人は分かれる。
赤司の部屋は、控えめな表現を選ぶならば質素な部屋だ。遠慮しないのならば、殺風景と言う。家具類は全て貰い物で、布団は五鈴の夫――弦次のお下がり。食事などはほとんど共同スペースで済ませるため、食器類もない。六畳の畳部屋には、綺麗に折りたたまれた布団があるだけで、あとはコンセントからスマホとパソコンの充電器が生えている程度だった。
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