インバース・パラレル

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 先客は、近隣の大学に通い、以前は赤司と碧羽の通う栄生高校の生徒でもあった笹原健人――現代文芸部の部員である笹原拓真の兄だ。そもそも碧羽が人が集まらないと零した愚痴を拾った健人が、弟を彼女に紹介したのが碧羽たちと拓真の接点になっている。  赤司の入室に気づいた健人が親しみの伺える笑みを浮かべる。弟と同じ美形の顔立ちだが、別人だとわかるのは兄の方が自分の外面の見せ方を理解しているからだろう。いつも狂いなくセットされている茶色に染めた髪からも、女性の柔肌のように白く綺麗な肌からも、自分の容姿を印象よく人の目に移すための丁寧な労力が伺える。今でこそアパート内を家と捉えているためラフな格好だが、四季の移り変わりや流行の変化に敏感に反応し、自分を飾る衣装を変えることもまた、彼が自身の外見に気を付けている一つの証明にはなるだろう。  一方の拓真について言えば、髪は邪魔にならない程度の長さに切りっぱなし。服は動きやすさを前提に選ぶ。伸びた無精ひげに気づいて初めてシェーバーに手を伸ばす。そんな持って生まれた恵まれた外見をぞんざいに扱う弟とは、確かに一線を隔す容姿をしていた。     
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