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結った碧羽の長い髪が、からかうように左右に揺れる。
「情報収集ですよ。物書きには知識が必要なんです」
「知識は確かに必要ね。でも、まずはどんなものでもいいから書き上げるべきだと私は思うけど」
「淀みなく言葉が溢れてくる人が言っても説得力がないですね。言葉を探すとかしないんですか、先輩は」
話しながらも一向に手の動きが緩むことのない碧羽の姿に、赤司が苦笑する。
「言葉なんて後で吟味すればいいの。それより、今浮かんでいる言葉を、たとえ拙くても、間違っていても、とにかく吐きだすべきよ。その言葉は今の私にしかないものだから。言葉は主張よ。存在を訴えるの。私はここに居るんだって」
そこで言葉を切って、今日執筆を始めてから初めて、碧羽が手をキーボードから離す。文字の奔流が止まったエディタを手のひらでそっと撫でた。
「ここは、私に私の居場所がある」
そういって、碧羽が振り返る。体育館から拝借してきた折り畳み式のパイプ椅子の背もたれに身を預けて、理性を宿した涼し気な瞳が赤司を覗く。
「これさ、パソコン貸す時にも聞いたと思うんだけど。君はどうして今になって筆を執ったの? 必要分の投稿は私がするって言ったはずだけど。それでも文字を起こそうとするのはどうして?」
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