インバース・パラレル

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 二人が所属する現代文芸部。四月に文芸部を止めた悠木碧羽によって今年新設されたばかりのその部活は、その存続へのノルマとして、近年勢いを増し続けるネット文芸、その投稿サイトに月4作品、部員数分の投稿が課せられていた。碧羽は1~3万字程度の短編を怒涛のように書き上げて、積み立てまで残している。赤司も何度もそれは読んでいるが、どれもこれもがハッピーエンド。物悲しいエンディングは見たことがなかった。そんな碧羽は、最近では中編小説の連載も始めた所だ。  そうして当面の存続を約束された現代文芸部で残りの三人が筆を執る必要はなく、実際に4月の設立から9月も末日に近づく今日まで彼女以外の部員が物語を語るために言葉を探すことはなかった。そうして碧羽だけが物語を紡いでいくはずだったこの部室に変化が起きたのは、つい一昨日のことだ。唐突に現代の筆と用紙を求めた赤司は、碧羽からお下がりのノートPCを借り受け、放課後にはこうしてテキストエディタと対峙して過ごしている。  赤司が返答に答えを探すように視線を碧羽から未だ一文字も埋められることのないウィンドウへと移す。白紙の原稿、それは如月赤司というものを端的に表しているのではないか。他の誰でもない、赤司自身が感じることだった。 「知ってるでしょう? 書けるなら書いてみたいとは思っていたんですよ」 「書けると思ったの?」  意識をスマホに戻す赤司を、そんな答えでは満足しないと碧羽が声をかけて呼び止める。 「この小説、いえ、誰かの独白、ですかね。これに続きを書きたいんです」     
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