インバース・パラレル

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 そう言って赤司が見せたのは、未だ僅か数行しかない投稿小説だった。現代文芸の形は様々だ。エッセイでも、詩でも、あらゆるものを電子の書庫は受け入れ内包する。それは一人の独白。恐らくは英雄に敬愛し、英雄のために生きた人物の語り。 「これを使うの? どうして?」 「何故と聞かれると、答えるのは難しいんですけど。何を書こうか悩んでいる時に、運営からのリンクに入っていた通知を開いたら、これだったんです。ちょうどよかったんですよ。まだ何も始まっていない物語。だから、ここに僕を乗せてみたいと思ったんです。別に、公開するつもりもないですから、盗作でも構わないじゃないですか」 「公開しないのなら、確かに構わないかもしれないわね。まねるはまねぶとも言うし、それ自体を否定したりしないわ。でも、だったらもっと有名どころを使えばよかったじゃない。我輩は猫である、とか書き出しが有名な作品だって沢山あるんだから」 「無茶言わないでくださいよ。名作の書き出しなんて拝借したら、ハードル上がりすぎて一歩も、いやいや、一文字も埋められなくなるじゃないですか。それに、なんとなく書けそうだなって思ったんです」 「そう思った末の0バイトな訳ね」  弁解くさく言葉を重ねる赤司を、碧羽が一言の元に切り捨てる。反論の言葉も浮かばず、ぐぬぬ、などとわざとらしい呻きをこぼす赤司の姿を面白そうに眺めてから、碧羽がふっと息を吐いた。 「まあ、頑張って。応援してる」     
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