1人が本棚に入れています
本棚に追加
「言葉が軽くないですか」
淡々と投げられた言葉に赤司が噛み付く。そんなものは気にも留めず、碧羽は自分の机に向き直り、また自分の物語を走らせ始めた。
「見せてくれる日を楽しみにしてるから」
「はいはい。頑張ります」
碧羽が、また髪を揺らして主張する。リズミカルにキーボードの上を滑る手に合わせて頭を緩く振る彼女は、いつも通りでありながらも少し上機嫌な様子だった。
背中で軽快な執筆の音を聞きながら、睨むように画面を見つめていた赤司が、椅子の上で居住まいを正す。今日部室に来てからとすれば長く、今したのだとすればあまりに短い、そんな葛藤の末、赤司は合掌して頭を下げた。
「いただきます」
食前の挨拶と全く同じ所作と言葉で謝意を告げて、スマホをモニタに立てかけると表示されたままになっていた英雄についての語り出しを、一字一句違わないようにゆっくりと写し始める。
リズムのある執筆の音とは対照的な、おっかなびっくりと慎重にキーボードを押す微かな音。原付バイクとスーパーカーほども違う執筆速度。それを知らせる音だけが余韻を残す部屋。ここにはそれしか無かったかのように、そして永遠にそれだけが続いていくように変化なく時が流れる。
最初のコメントを投稿しよう!