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永遠に続くかのように変化の訪れない部屋の扉がけたたましく開かれたのは、窓から覗く夕日が、ビルの群れに顔を半分ほど隠した頃合いだった。
「こんちわ!」
快活に挨拶を告げて部屋へ飛び込んできたのは部員の一人――唯一の一年生である花沢水希だった。いつも陽が暮れる頃に部室に訪れる彼女。以前に赤司が遅れてくる理由を尋ねた時には乙女の秘密と茶目っ気たっぷりに答えた。ふざけた返事を受けた後に、理由を尋ね直したり、放課後の水希を訪ね歩いたりしない辺り、赤司にとってもどうしても知りたいような謎ではなかったことが伺える。
綺麗に染めた金色のサイドテールを揺らして、童顔を隠すように派手目のメイクをした顔を、扇風機のようにゆっくりと振る。探し物があるのか、視線はフラフラと彷徨う。部屋には長机だけが置かれ、個人の荷物は机の上にはっきり見えるように広げられている。殺風景な部室で失せ物に困るようなことはあり得ないのだが。
「クマさんはまだですか?」
「見ればわかるだろ。笹原は今日は来ないんじゃないか。顧問が居ないとかで、バスケ部に顔出してるはずだよ」
間の抜けた「んあ」という感嘆詞とともに水希が肩を落とす。
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