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雲一つ無く、まっさらな蒼が空に広がる快晴の朝。空と同じく蒼い甲殻を身にまとった一頭の飛竜が、眠りから覚めようとしていた。太陽の光が彼の住む洞窟に差し込み、彼の頭を照らす。眩しさに目を細め、何度か瞬きをした後に彼は立ち上がって伸びをした。
同年代の同族と比べ一回り小柄な彼は飛竜らしい大きな左の翼を何度かはためかせ、凝りを解していたのだが、右の翼は根元から消失していた。
「ふぁーあ……。腹も減ったし獲物でも探すとするかな」
翼を失った飛竜――グランは大きなあくびをして独り言を呟いた。グランの住む一帯は土地が痩せていて、獲物となる動物はあまり多くなかった。欲しい時に欲しいだけの食料が得られるとは限らないので、彼は比較的精力的に狩りをしていた。
「まずは水辺、だな」
ここら一帯で水を得られる場所は限られている。つまり水辺に赴けば高い確率で水を欲する獲物に出会えるのだ。水分補給も出来て一石二鳥である。
グランは当然飛ぶことなど出来ないので、小走りで普段使う水辺へと向かった。獲物にバレてしまっては意味が無いので、ある程度近付いた所で高台に登る。影で見つからないように太陽の位置はしっかりと確認した。
グランは高台から水辺を観察した。そこには運良く三頭の大人の山羊と一頭子供の山羊がいた。呑気にも水を飲んだり草を食んだりしている。
グランは子供に狙いを定め、身構えた。食べごたえとしては大人の方が優れているのだが、今は確実に一頭仕留めたかった。
子供の山羊が自分のいない方を向いている時を見計らって跳躍。翼を畳み、矢のように獲物に飛びかかった。後ろ足を上げ、爪で引き裂くように蹴りを入れる。グランの爪は山羊の急所に命中し、ビクリと一度震えると獲物は動かなくなった。
グランは勝利の余韻に浸るよりも早く獲物をくわえ、急いで走り去った。恐らく子供の親であろう山羊がグランを襲おうとしていたのだ。
草食動物というのは意外と強く、飛ぶことも出来ないグランは恐らくいくつかの怪我を負わされてしまうだろう。そんな危険を冒す気は無かった。
「―――――て―――」
「……?」
水辺から離れ、首尾よく仕留めた獲物を見て得意げにしていたグランは首を傾げた。遥か遠く、空から声が聞こえたのだ。
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