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どんな時も柔和な笑顔を絶やさないのだが、状況次第ではゾッとさせられる。
オレは視線すらそちらには向けず、先程の言葉に返答した。
「なんだ。いい加減働け、とでも言うつもりか?」
「滅相もございません。今日はいくらか肌寒うございますが」
「それほど気にならない。だが、言われてみればそうかもしれん」
「私を抱き締めて暖を取られてはいかがでしょうか。このような日には人肌が心地よい、と耳にしております」
「そうか。口閉じてろ」
「承知いたしました」
イリアは平常運転だ。
真面目を装いつつ、逆セクハラ紛いの発言をする。
傍目から見ると優秀なだけに性質(たち)が悪い。
改めて意識を窓の外へ向けた。
カァン、カァンと槌(つい)を振るう音が聞こえてくる。
きっと真面目に作業していることだろう。
近くに尊大な怠け者が居ると知りつつも。
ーーすまんな、オレは働く事が苦手なんだ。
顔の見えない勤勉家に小さく謝罪した。
きっとそれが届くことはないだろうが。
コンコンッ。
ノック音が聞こえた。
どうやら誰か来たようである。
イリアが静かに相手を迎え入れた。
訪れた客は無遠慮にツカツカとこちらに歩き、オレの目線の先で仁王立ちになった。
妙に小柄で華奢な女だ。
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