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八月の雨の日、膨れ上がった好奇心を満たすにはうってつけの日です。
適当な理由をつけて、その日はお人形のいる和室に布団を敷いて一人で眠ることになりました。
お人形は私にとってとても身近な存在だったので、一緒に夜を明かすことは全然怖くなかったです。
すっかり夜も更けた頃合で布団に潜り込んで、頬杖をつきながら寝ぼけ眼でお人形を眺めていたら、お人形の目玉に嵌められた左のガラス玉がキラリと光ったような気がしました。
布団から這い出て近づきます。
外では、冷たい雨が降りしきっていました。
「……あれ?」
目を凝らしてよく見ると、黒髪の日本人形であるはずなのに左眼が黒くありません。
黒い右眼と比べると深い紺色……光の当たり具合によっては青色に見えました。
「わたしの、め、じゃ、ないの……」
何処からか、か細い声が聞こえました。
辺りをキョロキョロと見渡しますが、和室には私とお人形しかいません。
「お人形さんの目は、どこにいったの?」
大好きなお人形さんと話が出来るのがうれしくて、つい話しかけてしまいます。
「私が探してあげようか?」
親切心のつもりでそう言って微笑んだら、外の雨音がピタリと止まりました。
私の目は、黒です
「かえして……」
ガラスケースの中にいるはずのお人形の声が、後ろから聞こえました。
さっきまでの楽しい気持ちが、一瞬で吹き飛びます。
その声は可愛らしいものではなく、地の底から沸き上がるような恨みのこもった声でした。
「ねぇ……」
誰かが、私の頭に手を伸ばした感触が身体を縛ります。
「あ、あ……」
お人形の左の青い瞳から、血の涙が頬を伝って流れ落ちました。
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