四度目の春

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 『独りで生活しているからそうなるでしょう。そろそろ家庭を持った方がいいのよ。田辺さん家はもうお孫さんが二人目ですって』  延々と続く恨み言のような小言。それが聞きたくなくて、だんだんと実家からも足が遠のいてしまう。  別に家庭を持つ事に否定的ではない。そうするのが普通なのなら、いつかそう流されるのだろうと最近では思い始めている。  もう誰も愛せない。そう思った四年前の春、あれ以来だれかと時間を分かち合うということはない。  身体の熱だけなら、取る方法はいくらでもある。一晩限りの相手を見つけるのは難しいことではない。特に今の生活に不便もない。けれど、母親がそう言うのなら誰か適当な相手を見つけて、家庭を持てばいいのだろう。  ただ、会社に行き仕事をこなして、とりあえず生きる。そもそも、目的をもって生き生きと生活している人なんてほとんど世の中にはいないんだと思う。自分がなぜ生きているのかなどと大仰なことを考えているわけじゃない。小さい楽しみや、小さい躓きはこんな生活の中にもある。  とりあえず、今日を過ごして明日を迎える。その単純作業の繰り返しで一年を過ごし歳を重ねる、それだけのこと。     
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