四度目の春

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 思考がマイナス方向へと向かっている。今日は心がささくれだっている。自分の気持ちの中にあるどうしようもない苛立ち。その原因が分かっているだけに余計情けない。  昨日の夜の夢のせいだ。飲みすぎた酒のせいなのか、ここしばらく見ることのなかった夢を見た。夢の中で、俺の腕の中にいたのは……。  思い出しても仕方ない。あれ以来一度も会っていない。通っている大学も知っていた。それでも、会おうと努力しない限り社会人と大学生とでは生活時間も違う。会うのが怖かったのかもしれない。もう俺の居場所はないと告げられるのが。  長い休みには、ふと何をしているのか考えたこともあった。携帯に手を伸ばしたのも一度や二度じゃない。  なんで今頃。四年も経って、最後の清々しい笑顔しか思い出せないのか。憎むことができたらこの執着から離れられる気がする……。  「……奏太、どこで何している?」  捨てきれない思いが声に出た。耳に戻ってきた自分の声に誰かに捻じられたように胃がきりきりと痛んだ。    高校の時一年半付き合って、突然俺の前から姿を消した。奏太が俺に言えないと苦しんでいたその理由を本当は知っていた。それだけに、相談さえしてもらえなかった自分自身が情けなかった。  高校生がどうにか出来るレベルの問題ではない事もわかっていた。大学生になれば、あの家から連れ出してやれると思っていた。     
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