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「それがさ、話題になっているんだよ。どっかのお偉いさんの遠縁に当たるらしいんだけど、頭の切れるやつでさ。年齢は俺たちと同じ。なんだか、外国にいたとかで、今年入社したらしい。秘書課の情報だから確かだろ」
「で、その新人がなんで俺たちに関係あんの?」
「関係あるっちゃあるし、ないっちゃないかな。玉の輿だとか給湯室で噂になってんだよ。新人に可愛い子全部喰われちゃうかもしれないじゃん。トンビに油揚げなんて、俺いやだからさ。名前なんて言ってたかなあ、小野だったかな?」
秘書課の女子か、興味は無い。大野のくだらないおしゃべりに付き合いながら、久々に混雑した社食に足を踏み入れた。
「あ、いた。ほら、あいつだよ」
大野の指さした先には、忘れたくても忘れられない顔があった。
「奏太……」
「え?お前も知ってんの?あ、そうだ尾上奏太だ、かなり秘書室で有名」
「……まさか、何で……」
「木村?お前どうした?顔、真っ青だぞ」
「ご、ごめん。俺、急用を思い出した。デスクに戻る、悪い」
「え?飯は?おい、木村!」
社食を出ようとした俺に呼びかけた大野の大きな声、そこにいた数名が振り返った。奏太に気づかれないように慌ててその場所を後にした。
別に悪いことをしているわけではないが、逃げるように社食から出た。何が起こっているのか全く理解できない。軽い過呼吸状態になり、目眩がする。
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