四度目の春

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 コンビニへと向かった大野の後ろ姿を見送りながら考える。新入社員ってことは二週間前から同じビルの中にいた事になる。外国為替部門は、高層階にあるため五階の営業部とは使うエレベーターを違う。  俺はほとんど、社食は使わないし、高層階にある管理部門へは女性スタッフにお願いして行ってもらう。なかなか自分から高層階へと向かうことはない。  だからすれ違うことも今日までなかったのだろう。  それにしてもなぜ、ここに奏太がいるのかが解らない。コネ入社だと、大野は言っていた。奏太にそんな親戚がいるなんて話は聞いたことがない。  そのまま午後からの仕事も手につかず、やったこともないミスを重ねる。インボイス上の桁の入力ミスなど一番やってはいけない事までやらかした。  課長がため息をつくと「働かせ過ぎか……」と、独り言を言った。  かなり体調が悪いのではと心配されて、定時に追い立てられるように帰ることになった。  「木村、今日このまま病院行け。そして週末は休んでろ。月曜からまた頑張ってもらうから。大野、木村の仕事今日の分引き継げ」  とうとう課長が珍しく、俺から仕事を取り上げるという始末だ。情けない。でもこれ以上ミスを重ねてしまえば、却って仕事を増やすだけだった。     
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