四度目の春

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 まだ空が明るいうちに会社の正面玄関から出る。ここに出向してきてからは、帰宅時間がいつも遅く、夜間通用口以外から帰宅したことはなかったなと、考えながら自宅へと向かった。  早い時間に帰宅したものの何をすれば良いのか、全く見当もつかない。今まで会社から帰ったら泥のように眠るだけだったからだ。  そもそも土日にゆっくり休めと言われたところで、何もすることはない。余計な時間ができたことで、くだらないことばかりが頭を駆け巡る。  なぜ今更、俺の前に。偶然か、それとも……。  部屋の中を檻の中の熊のようにうろうろとする。  なんだかふらふらする、考えると今日は朝から何も食べていない。朝のゼリー飲料のみだと気がついて、何か口にしないとと冷蔵庫を開ける。  缶ビール数本と缶詰が少し。わかってはいたが、情けない食生活だ。  とりあえず冷蔵庫から取り出したビールのプルタブに手をかけたとき、インターフォンがなった。  「はい?」  確認もせずに開けたドアの前には……奏太が、立っていた。
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