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世話になっている……あの時のホテルの部屋に色濃く残っていた情事の後がまざまざと蘇ってくる。未だに記憶の中で褪せていないと知り自分の嫉妬深さに辟易とする。
「明正さんは、俺を泥沼から引き上げてくれた。あの時出会わなかったら俺は自分の母親に手をかけていたかもしれないんだ」
「やめなさい、そんなことはないよ。お前はそんな子じゃない。まあ、私が若くて綺麗な男の子に熱をあげて、その事実を秘書に利用されただけの事だ。迷惑をかけたのはこちらであって決してお前じゃない」
俺は本当にここにいて良いのか?……居たいのか?
口もはさめず黙ったまま二人の会話を聞いているしかない。
この話を聞いてしまえば、知らなかった過去には戻れない。
「……瑞樹?どうしたの……これ以上話を聞きたくない?」
奏太の言葉にはっとする。俺は奏太に離さないと言ったはずの手を引いてしまった。奏太は離れてしまった俺の手を見つめながら、哀しそうな顔をした。
「瑞樹、これさっきいた部屋の鍵……」
差し出されたカードキーを見て、奏太に視線を戻した。奏太がどう思っているのか、その表情からは読み取れない。
俺は……どうしたいんだろう、どうするべきなのだろう……。その時、権藤が口を開いた。
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