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厄病神と呼ばれた少年
暑い。
通学用のバスに揺られ冷房の効いた中で涼む予定も虚しく汗を垂らしながら大学へ向かう事になった。何故だよ、冷房故障中って。
ようやく解放されると思ったのも束の間、バスから降りればご丁寧にお迎えしてくれるのは肌を焼く強い日差し。それを受けただけでぶわっと汗が噴き出るようだ。
「替えのシャツ持ってきてよかった……」
この時期は嫌いだ。
ジメジメした梅雨が終わったと思えば、毎日が30度越えの日々。
寒いよりは熱い方がマシだと思うが、流石にコレが毎日続くとなると億劫だ。
しかし、この時期が嫌いなのは別に暑いからではない。
「俺の母校は勝ったよ」
「へー。うちは一回戦負けだって。しかも7回コールドらしいよ」
喧騒に包まれる大学の中でも嫌でも耳に入ってくる話題。
「今年の優勝どこだと思う?」
「春夏連覇がかかってる大阪のアソコじゃないか?」
妥当にいけばそうだろう。
と、なまじ知識がある分、反応してしまいそうになる。カクテルパーティー効果って奴らしい。自分に関する話題や知っている話題には耳に入ってくるってやつ。
聞きたくもないのに、反応したくないのに、否が応でも届いてくる。正直、憂鬱だ。
「あれ、今宮先輩じゃないっすか!」
聞き覚えのある声が俺の名を呼んだ。暑かったはずなのに、身震いをするような寒さを感じる声。
「今宮先輩っすよね!?」
振り向くと坊主がそのまま伸びたような金髪頭の日に焼けた学生が立っていた。
「お前……なんで?」
「なんでってここの大学に通ってるからっすよ。先輩、誰かから聞いてなかったんすか?」
「まぁ……な」
「ま、これからもよろしくお願いしまっす」
くだけた敬語は部活やっていた者ならわかるだろう。中にはきちんと話す奴もいるが大概がこんな感じだろう。強豪校とかはわからないが。
「ところで、先輩はまだ野球やってるんすか?」
その言葉を言われただけで、俺の意識は遠く何処かに行ってしまうような気がしたのだった。
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