第1章 探しもの

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 大学で聞いた噂では、どんな悩みも解決してくれるカフェがあるらしい。    しかし、それが何時、何処で、誰が営業しているかもわからず、噂の出どころも実際に行った人がいるかもわからない、いささか信憑性のない噂が大学のあちらこちらで囁かれている。    そんな噂を初めて耳にしたのは確か去年の冬のこと。長い冬休みをどう過ごすかを考えていた頃だ。  「今年の冬こそは敢えて海に行こう!」  間の空いてしまった講義の合間をカフェテリアで潰そうと考えたのが間違いだった。目の前に座る【松本 大輝】は目を輝かしてそんなことを言い放った。  「こんな時期に海で泳ぐのか?」  「そんな訳ないだろ! これだよ、これ!」  そういって大輝が取り出したのは一枚のパンフレットだった。  「冬の花火大会?」  「そう!どう、行きたくなったろ?」  「いや、全然。お前と行っても余計悲しいだけだろう」  「相変わらずノリ悪いなぁ。そんなんだからいつまでたっても彼女ができないんだぞ」  「うっさい。お前みたく手あたり次第にぶち当たってその度に振られてたら心が幾つもあっても足りないっての」  「下手な鉄砲も数うちゃ当たるって言うだろ?」    「はいはい。いつか当たるといいですねー」  「先に彼女できたらお前にも紹介してやるから待ってろよ」  告白に失敗するたびに聞いたこの言葉。それでもグッと親指を立ててほほ笑む姿はどこか憎めない。  「そーいえば、これ知ってる?」  スマートフォンを操作し、画面をこちらに向けるとそこには黒の背景に大きな文字で【Cafe】と書かれた至極シンプルなホームページが写っていた。 「知らない。何処にあんの?」 「やっぱり知らないかぁ。大学の掲示板って見たことある?そこにURLが貼られてて開いてみたらここに飛んだわけ。けど、誰が乗せたのかも場所が何処かもわからなくて、今大学の間で話題になってるらしい」  「そうなんだ。ネットとか興味ないから知らなかった。パソコンだってほとんど使えないし」  
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