第1章 探しもの

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 (この道を探すのは何度目だろうか……)  外に出るだけで凍える季節は終わり、若干肌寒さの残る深夜の道。  つい数か月前に大輝と話したカフェテリアでのことを思い返していた。  大輝が言った、眠れない体。  俺はある日を境に眠れない体になっていた。今のところそれに対する影響はないが、弊害はある。  とにかく、夜の時間が暇だ。  昼間は講義、夕方からはバイトの生活を大学に入ってから続けているが、眠れない体ではその後に待つ夜の時間を持て余す。  かといって、これ以上バイトを増やして稼ぎを増やすと扶養がどうのこと面倒くさい話にもなり、趣味に時間を使おうにも生憎趣味もない。  結局、何か目的を持って行動している方が気がまぎれるってことであらゆる所を深夜に徘徊する生活が続いている。  「傍から見たらただの不審者だろうけどな」  実際、職務質問されることは何回もある。  そりゃ、真冬とはいえコートを着た人間がきょろきょろしながら歩き回っていれば声をかけられるのは仕方ない。それが、警察にとっての治安を守ることだし、仕事だから。  でも、いちいち身元の確認だの所持品検査などをうけるのは面倒くさい。最初のうちは飲み会の帰りで代行で帰るお金がないからとか適当に言っていればよかったが、最近では同じ警察官に会えば、【ま た お 前 か】とまで言われるようになってしまった。  それでも今では、顔を合わせば冗談を飛ばしてくるようになったが…あれ、あの人いつも深夜のパトロールしてるけど、それしか仕事ないのか?今度聞いてみよう。  この町に来た時は、空気も悪い工場も多くてうるさい。駅前にはコンビニはないし、どこかに行くにもバスも電車も便が多くなくて車が必要と不便不満が絶えなかった。  だけど、気づけばこの町がとても住みやすいと思えてきている。  住めば都。  今、歩く工業地帯も煙突の光、機械の動く音も気にならない。それどころか心地よくも感じるくらいになった。  「ま た お 前 か」  突如、後ろから声がかかる。  「なんですか、飯島さん」  「近くまで車寄せてるのに何故気づかない」  振り向くと赤いランプを点灯させた車が停まっていた。
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