立つ鳥跡を濁さず

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立つ鳥跡を濁さず

蓮希との旅行から数日後。 私はお母さんと一緒に、総合病院を訪れていた。 ハンカチを握りしめた手を膝に置き、落ち着かない様子のお母さん。 検査結果を話す先生の言葉を、今日の私はしっかりと聞いていた。 一口に乳がんと言っても、そのタイプはひとつではないこと。 その中でも私は、トリプルネガティブという乳がんで、化学療法(抗がん剤)と手術が治療の基本となると言われた。 比較的早期発見だった私の乳がんステージはⅡa(しこりの大きさが3cmで、わき下のリンパ節に転移がない)。 まだ二十代という年齢を配慮し、術前化学療法を行った後、温存手術、放射線治療という流れを考えている旨を先生が更に捕捉した。 私はお母さんへ尋ねるように顔を向ける。 泣きたいのは私の方なのに……。 お母さんの顔は、涙でぐしゃぐしゃになっていた。
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