第一章 自我と欲望

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 要するに、桜が散ったばかりのこの季節から、今年のクリスマス直前までずっと、国家試験対策委員も、 成績不良者も休日返上なのである。恐ろしい。  青春を謳歌することしか考えていない大学生たちが放課後を剥奪されたら、そりゃあ反発するだろう。例年暴徒と化した成績不良者を鎮圧するのも、国対委員の仕事となっている。  こんなに大変なのに、名誉職と言う名のただ働き。こんな仕事を誰がやりたがるんだ、と呆れるだろう? それが、案外多いんだよ医学部には。そうやって人の上に立つことで自分の優位性を見せびらかしていい気になるような奴らが。  ほらこの空間も半分以上の人間が嫌そうな顔をしながらも目を輝かせている。まあそういう人間が集まっているからかもしれないけれど、少なくとも僕は吐き気がする。 「じゃあ、わたりんは、小坂ちゃんと、紫藤ちゃんの担当ね」  はぁ? 「なんで僕があの2人の担当なの? 負担のバランスが取れてなくない?」 「だって、わたりんは、あの二人と同棲していんでしょう?」 「同じ寮に住んでいるって言うだけであって同棲しているわけじゃない。言い方がおかしい」 「美女二人と住んで、いつも鼻の下をだらだら弛緩させているくせに」 「そんなだらしない顔はしていない」  と、思いたい。 「それに、 あいつらに勉強しているのはどれだけ大変だと思っているんだよ」 「その大変さを補ってあまりある幸福でしょ?」  他の国対委員たちに担当学生を割り振りながら、 覚本はそっけなく言った。もはや僕の反論を全く聞いていない。 「そんなラブコメ的なシュチュエーションはない。逆に我慢しているところが大きいくらいだ。それなのに、こういう時にさらに嫌なところをさらに追加されたら、僕は絶望しちゃうね」  僕の発言に、担当学生を割り振られて心の余裕を取り戻した国対委員たちが、飢えたピラニアのように食らいついてきた。 「みんな小坂ちゃんや、紫藤ちゃんを狙っていたのに」 「俺なんて、紫藤ちゃんに5年間ずっと声を掛けてきたのに」 「それだけお前はいい思いをしているっていうことだ」  この結束力を勉強に使えていたら、全国で ワースト2にはならなかっただろうよ。 「そんなに羨ましいんだったらどうぞどうぞ持って行ってください」 「いやあの二人は観賞用で十分だ」 「太陽みたいなもん?」 「いやブラックホールだろ」  酷いね。
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