第一章 自我と欲望

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  紫藤さんは、 転んだ子供を慰めるような慈愛に満ちた表情で、優しくつぶやいた。 「貧相なのお前の胸だろ」 「ちょっと、わたりん、それはセクハラ。それと貧相なのは、わたりんの想像力も」 「小坂さん、「も」って何ですか?」  笑顔の詰問する紫藤に笑顔を返して、小春は僕の顔を見上げてきた。僕を糾弾しつつ、喧嘩を始めるとは、器用な二人だよ。 「で、どうしてわたりんは私たちの点数を知ってるの?」 「僕が君ら二人の面倒を押しつけられたからだよ」 「えぇ? 最悪ぅ」 「それは、こっちのセリフだし、泣きたいのもこっち」  「わたりんは良いじゃん。私たちみたいなかわいい女の子を教えられて。わたりんはこれまでにこんなにいいことなかったんじゃない?」 「あったわ。人の人生ナメるな」  僕の反論を完全に無視して、小春は続ける。 「それに引き換え私は。放課後の時間を奪われるわ、無理やり勉強させられるわ、一緒にいるのはわたりんだわで。ね? 死にたくなるでしょう?」 「24時間自分と一緒にいて勉強もしている僕は、もうとっくに死んでいておかしくないよな」 「それはわたりんが、自分自身に絶望しているからじゃない? 少しでも希望があったら耐えられないって、わたりんのスペックは」     
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