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そんな快適とは程遠い生活を送っていたある日、夜中に寝苦しくて目が覚めると、あいつが居た。寝ている俺の腹に乗っかってニヤニヤしている。そいつが見えた瞬間に酷い異臭がした。小便と大便が入り混じった吐き気を催す臭いに、何度も嗚咽を漏らす。視界には血色が悪く、飛び出しかけた二つの眼球と、口からはみ出した腫れぼったい舌、極めつけは通常の倍に伸びて細くなった首。どう考えても首吊って死んだ時の姿で化けて出た男に、俺は恐怖とともに怒りを感じていた。とにかく臭いに耐えられない。
男は無言のまま自分の首にかかるロープを、俺の首にかけた。
とうとう殺す気か。ロープが掛けられた瞬間に一気に首が締めあげられたように息ができなくなる。
苦しい、臭い、苦しい、死ぬ、もがく俺を他所にでろでろと舌を出した男は笑っている。
徐々に意識が遠くなり、次に目覚めた時にはいつもと変わらぬ朝を迎えていた。
俺は慌ててベッドから這い出てお祓いの出来る寺をネットで調べた。県内で数件しかヒットしなかったがスマホ片手に家を飛び出した。
「申し訳ありませんが、うちではそれは払いきれません。お引き取り下さい」
最初に回った数件の寺にはそうやって断られた。
三件目の寺の住職が凄く嫌そうな顔をしたが、半泣きの俺が土下座までして「あんなの耐えられない。死んでしまう」と叫ぶのを見てお祓いをしてくれた。
「全ては消せませんでした。けれど、彼はもう姿を見せないでしょう」
一時間くらいお経の様なものを聞いていたから、ぼーっとして住職の言ってる事がよく分からない。でもお祓い出来たなら良かった。
清々しい気分でベッドに倒れ込み、疲労のせいかいつの間にか寝てしまっていた。
ふと夜中に目を覚ますが真っ暗なそこには男はいない。
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