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それまで「幸せ」なんて考えたことすらなかった。
家族がいて、友人がいて、支えてくれる島の人達がいる日常が当たり前だった。
それがすべて「かけがえのないもの」だったと気付くのは、全てを無くした後の「絶望」を知ってからだ――。
煌々と広がる朱、紅、赤。
緑豊かだった木々が燃え広がり、天に向かって白い煙を伸ばす。
何度も聞こえる銃の乾いた発砲音。
あちこちで聞こえる下品な笑い声、雄叫び、そして誰かの悲鳴。
終いには目の前に向けられた、知っている誰かの血が滴るカトラス。
―――それらのすべては、俺の足をすくませるのに十分な要素だった。
「はっはァ!見ろよ!ここにガキが残ってやがったぜェ!」
「まァだ隠れてやがったのか!」
俺の目の前に立ち塞がるように立つ2人の男。
片方の男のは、くすんだ茶色の短髪の大柄な風貌に手には短銃、もう一人の男は黒髪を後ろでまとめ、右目に眼帯をはめ、
その手には真っ赤に染まったカトラスがあった。
目の前にいる男の姿と、そのさらに奥の凄惨な光景が信じられなくて、魚の入った籠を持ったまま、しばらく固まって動けなかった。
向けられた血に濡れたカトラスでようやく我に返り、理解した。
この島に―――" 海賊 "が来たのだと。
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