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   「ねぇ、そこのキミ」  背後から自分を呼び止める声が聞こえ、藤宮真尋は内心で溜息を吐きつつ歩く速度を上げる。  少し垂れぎみの眥(まなじり)に、無造作に遊ばせた癖毛は明るめの茶色で、見る者によっては声が描けやすく、遊んでいるようにしか見えないらしい。  そう教えてくれたのは大学の友人で、何度となくその格好は止めた方がいいと忠告されている。にも拘わらずそれが出来ない理由が真尋にはあるのだ。  勿論、その理由を友人に言うつもりもないし、全くスタイルを変えない真尋に諦めたのか口喧しく言う事も無くなった。  「ねぇ待ってよ」  尚もしつこく追いかけて来る男にうんざりしつつ、真尋は足を止めることなく目的地へと向かう。  繁華街は金曜日の夜ということもあり、ほろ酔いのサラリーマンや、真尋とそう年も変わらない学生、女性のグループなどで溢れている。  そんな人波の中を縫うように歩き、何とか男を遠ざける事に成功したようだと、ホッと息を吐く。  そのまま通りを抜け、少し入り組んだ裏路地を少し歩けば目的地はすぐそこ。  予定の時間より少し遅れはしたものの、許容範囲内だと勝手に判断して店のドアへと手を伸ばそうとした。  「へぇ、キミやっぱりこの店のバイト君だったんだ。どっかで見たことがあるって思ってたんだよね」  背後から再び聞こえたその声に、今度こそ真尋の動きが止まった。  「この店ってゲイバーだよな。そんな処で働いてるって事は、やっぱりキミもそうなわけ?」  あまりにも軽いその言葉に、憤りを感じながらも沈黙を貫く。  
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