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   「確か『ウミ』って呼ばれてるよね?この店で働いてるのってやっぱりマスターが目当てだったりするわけ?」  真尋を挑発する言葉だと知りながらも、最後の一言は聞き流す事がどうしても出来なかった。  「残念ながらマスターに、そんな感情を抱くことはありません。不愉快なのでお引き取り下さい」  真尋の名前を知っているのだから、この店の客には違いないのだろうけれど、相手をするつもりはない。  「お客さんにそんな事、言っていいわけ?キミがそんな態度ならマスターに頼んで馘にしてもらってもいいよ」  「どうぞ馘にでも何でもして下さい」  まさに売り言葉に買い言葉。  言ってしまった以上、前言撤回などする気もないし、マスターがこんな客に流される事がないと信じるしかない。  「じゃあ、俺と一緒に中に入ろうか?楽しみだね」  真尋は男にずっと背を向けたままだから、表情は分からないけれど声を聞けば簡単に想像が出来る。  「悪いがそんな必要はない。この店に入るのはウミ一人だけだ。お前は此処からとっとと去れ」  突然割り込んだ声と同時に、真尋の視線に男物の革靴が映る。  「あんた誰だよ?」  いいところを邪魔された不快感を隠しもせず、声の主に喰ってかかる。  「お前に言う必要はない。ウミ、先に中に入っていろ。マスターが心配しているから」  「はい。ありがとうございます」  この革靴の主が誰かなんて顔を見なくても真尋には判ってしまう。  労るような優しい声に背中を押されて、言い付け通り先に店内へと逃げ込む真尋の背を見届けると、声の主は男へと向き直った。  
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