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ふつふつと湧く負の思いに流されまいとしていると、不意に右手を取られた。
あの夏の日と同じ。
右の手首を、彼が掴んでいる。
あの日以来、決して消えぬ傷を負ったままの私の手首を。
驚いて、彼を見上げる。
駅の中へ-秀王は彼女の手を引き、歩き出す。
あの夏の日と同じ。
遠慮がちに、手首を。
掌には決して触れず。
掌は決して握らない。
手と手と繋ぐのではなく、ただ動かぬ自分を導く為だけの行動。
自分を帰したがってる-泉夏はその事実に愕然とする。
こんな風じゃなく。
せめて普通に手を繋いでくれたのなら。
まだ素直に従えたのだろうか。
せめて一度くらい。
手と手を触れ合ってくれたのなら-。
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