第9章 邂逅の春

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ふつふつと湧く負の思いに流されまいとしていると、不意に右手を取られた。 あの夏の日と同じ。 右の手首を、彼が掴んでいる。 あの日以来、決して消えぬ傷を負ったままの私の手首を。 驚いて、彼を見上げる。 駅の中へ-秀王は彼女の手を引き、歩き出す。 あの夏の日と同じ。 遠慮がちに、手首を。 掌には決して触れず。 掌は決して握らない。 手と手と繋ぐのではなく、ただ動かぬ自分を導く為だけの行動。 自分を帰したがってる-泉夏はその事実に愕然とする。 こんな風じゃなく。 せめて普通に手を繋いでくれたのなら。 まだ素直に従えたのだろうか。 せめて一度くらい。 手と手を触れ合ってくれたのなら-。
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