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駅へと足を踏み入れかけた瞬間。
引きずられるように従うしかなかった泉夏の足は、急にその場に立ち止まった。
何事かと秀王は彼女を振り返った。
「…離して」
泉夏は呻くように呟いた。
「離して。でないと、大声出してやる」
秀王は目を見開き、驚きに言葉を失う。
「すぐそこの交番からおまわりさんが駆けつけるくらいの声で、痴漢だって叫んでやる」
続いて彼女が発した内容に、二度目の衝撃を受ける。
そして、数秒後-静かに、秀王は彼女の右手を離した。
やるせない想いを宿した吐息が漏れる。
「…いつかもこういう事があったのを思い出した」
あの夏の日の記憶が脳裏に甦る。
「あの時は確かに自分に否があったから、本心から声を出してもらって構わないと確かに言った。…今は」
そこで秀王はもう一度、嘆息した。
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