第9章 邂逅の春

86/92

3239人が本棚に入れています
本棚に追加
/1351ページ
「嫌なら一言言ってもらえれば、すぐに離した」 悲痛な双眸で訴えられ、居たたまれない泉夏は即座に瞳を逸らす。 「いきなり触れてしまって、それは申し訳なかったと思うけど。出来ればこの人通りの多い駅前でいきなり大声は-」 -勘弁して欲しい。 乞われたが、泉夏は横を向き押し黙ったまま。 素直に謝る事なんか出来ない。 だってこんな中途半端なまま、別れようなんてするから。 改札まで連れて行こうとするから。 どうしてこんな途中のまま、終わってもいいなんて思えるの。 本当に、そう思っているの-? 「…今更って何?」 駅の入り口付近だから、人の通りは激しい。 泉夏の放った声の大きさに、擦れ違った人達が振り返る。 でもそんな事、今の彼女には関係なかった。 聞きたい人がいるなら聞けばいい。 見たい人がいるなら見ればいい。
/1351ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3239人が本棚に入れています
本棚に追加