第10章 追憶の春

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ほんの、僅か。 でも確かに。 微かに触れた、その時。 「いいの?」 彼は囁いた。 なにが?-訊き返したかったが喉の奥は乾き、それは敵わない。 第一。 口を少しでも動かせば、更に触れ合う。 声を出して意思表示したくとも出来ない-そう言った方が正しかった。 「ほんとにするけど、いいの?」 彼は再び甘く、囁く。 一語一語発する度に掠める、唇。 頭の芯が痺れてくる。 数時間前にした、されたものとは、まるきり違う。 はっきり重なったわけではないのに、既に心臓は激しく波打っていた。
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