その恋を運命と呼ぶのなら

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空は碧と呼ばれた少年の背中を廊下で見送りながら、眩いばかりの存在に目を細める。 都心から急行電車で三十分、郊外にある自然豊かな街並み、山を切り崩し建てられた中学校は緩い坂を上った場所にあった。 進学校というわけではなく、この土地に住む者が集まる公立校で、空は訳あって中学の時にこの街に引っ越して来たばかりだった。 皆、小学校からの付き合いなのか、知り合いの一人もいない空は、入学当初からその輪の中に入っていくことはできなかった。 真城碧(ましろあお)は入学当初から誰もが一目置く存在だ。地元なのか友人も多く、いつも周りを人に囲まれている。真っ黒で直毛の髪に、髪と同じ色の大きな瞳、そして中学一年生にしてすでに百七十を超えた体格は嫌でも目を引くが、線は細く中学一年生らしい可愛らしい顔立ちをしている。 「綺麗……」 ポツリと空の口からでた言葉は、誰の耳にも届いてはいない。 じゃあなと友人らに手を振る碧は、人好きのする笑顔を振り撒いている。補導されんなよーと見送る周囲の生徒も、何が楽しいのかゲラゲラと腹を抱えて笑っていた。 人付き合いの苦手な空とは正反対で、気さくで人懐っこい性格は周りの人間を巻き込み笑顔にする力があるのだろう。     
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